【#NEWS ポストセブン】GSOMIA失効目前 韓国の巷に再びあふれる「ノー・ジャパン」

 11月17日、バンコクで開かれた日韓防衛相会談は平行線に終わり、日本、米国、韓国の安全保障に関わる「日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)」の失効が現実味を帯びてきた。韓国政府が「破棄」を撤回しない限り、23日午前0時で同協定は失効する。ソウル在住のジャーナリスト、藤原修平氏が失効目前の韓国からリポートする。
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 最近の韓国ではあまり見なくなったフレーズが、ふと目に飛び込んで来た。「BOYCOTT JAPAN “行きません”“買いません”」──そう、それは今年の夏以降、韓国国内を席巻した「ノー・ジャパン運動」を呼びかける横断幕だった。

 11月初旬、韓国南西部に位置する務安(ムアン)郡のとある集落を通りがかった時のことだ。

 同種のポスターや旗、横断幕は、ソウル近郊から姿を消してずいぶんと時が過ぎている。きっかけとなったのは、8月6日、ソウル市鍾路(チョンノ)区が「NO BOYCOTT JAPAN」と大書された旗を大通りにずらりと設置したことだった。これに市民から、「韓国に来てくれた日本人観光客までを不快にするもの」や、「今後の政府による国際世論戦に悪影響を与える」といった苦情が殺到し、設置後数時間にして大量のキャンペーン旗が姿を消した、というニュースは記憶に新しい。

 あるいは、日本ボイコットを堂々と表明してしまうと、自分たち韓国人にブーメランになって返ってくるから都合が悪い、というのが本音かもしれない。続いて登場した「YES! コリア」運動では、ソウル市庁舎の近くにも巨大な横断幕が掲げられたことがある。趣旨は、「韓国産のものを頑張って購入し、旅行先も韓国国内にしましょう」というものだが、それは詰まるところ、ノー・ジャパン運動の裏返しでしかない。

 日本ボイコットが嫌日行為である以上、外国人観光客の目に付き難ければよく、また、それを韓国の巷で個人レベルでしっかりと支えられていればよいというわけだ。だから、務安郡の小さな集落のような田舎はもちろん、ソウル市内でも外国人観光客が通らないような界隈では、日本ボイコットはいまだに“素のままの姿”を曝け出している。

 つい最近、筆者がソウル郊外の京畿道一帯を車で走っていたとき、すぐ前を走る自家用車のリアウインドウには「ノー・ジャパン運動」のステッカーが貼られていた。また、ソウル市内のとある在来市場(市内各所の裏通りにある庶民の台所的市場)を訪れたときには、路面に「日本のものは買いません」とペンキで大書してあるのを見た。

 ソウル市内といえば、今でも日本料理店は大人気で、遠目には日本ボイコットなんてどこ吹く風という活況ぶりなのだが、近づいてみると店頭や店内には「当店では日本の食材は一切使用しておりません」と(韓国語のみで)書かれた張り紙が貼ってある。その張り紙をスマホのカメラで撮ろうとすると、店員からは「止めてください」と言われる始末だ。

 韓国の巷では、23日午前0時でのGSOMIA失効期限を目前に控えても、日本ボイコットは堅調である。去る17日には大韓航空のソウル-小松便が1か月半ぶりに復活したが、その他の路線の再開予定は限定的だ。筆者が務安郡の集落を訪ねた際、立ち寄った食堂で現地の人に話を聞いたところ、集落にほぼ隣接する務安国際空港から日本への定期便は、かつて成田や関空をはじめ九州各地に飛んでいたものの、現在はすべて運休しているという。韓国の大都市以外から日本に行く手段は、まだ全く回復していないに等しいわけで、韓国社会の根強い日本敬遠意識を物語っているように感じた。

 そもそも一連の日本ボイコットは、日本政府が安全保障上の理由により、韓国向け半導体素材の一部について輸出管理の運用を見直したことに対する、一般市民から始まった経済報復運動と言えるものだ。そうした世論に韓国政府が便乗して、「半導体素材の国内生産化」を進めることで急場を乗り切ろうと、文在寅大統領自らが音頭を取っている。

 15日には米国のエスパー国防長官が韓国を訪れ、韓国政府要人らに対してGSOMIAの重要性を説き、これを維持するように求めた。だが、文在寅大統領は「安全保障上信頼できないという理由で輸出規制を行っている日本と、軍事的に敏感な協定を結ぶのは難しい」と、難色を示している。そしてGSOMIA維持の条件として、「日本の輸出規制の撤廃」を挙げている。

 文大統領が米国の説得にも応じない姿を見せているのは、文政権が韓国の巷に蔓延した嫌日運動に支えられているからである。日本が輸出管理の運用について現状を維持しているにもかかわらずGSOMIA維持を宣言してしまうと、韓国政府としては「日本の輸出規制」を認めたことになり、それは嫌日運動を否定してしまうことになる。

 また、韓国政府は国内での就職難の対応策の目玉として、大学新卒者を日本などの海外で就職させる国家政策を長年、推進してきた。2013年から「K-Move」と名付けられたこの事業は各大学でプログラムが行われるもので、例年ならば日本企業から面接の依頼がいくつもくるはずが、今年はほとんど声がかかってこないという。K-Move関係者に話を聞いたところ、「学生はまだその現実がよくわかっていなくて、去年のようにいくつも面接が受けられると思い込んでいます。でも、今年はまだ面接の予定が一つも入っていない学校もあって、心配です」という。

 このままGSOMIA失効となれば、韓国国民の嫌日運動はこれから先も数年続くことになるだろう。となれば、文政権の重要公約の一つである「若者の就職率向上」に深刻な影響が出てくることになる。また、それでなくても脆弱化が進む国内経済に、輪をかけるようにしてダメージを与えることになる。

 そうしたことも踏まえたうえでも、文大統領はこのまま「民意」を理由に危険な道を突き進んでいってしまうのだろうか。