【#ニューズウィーク日本版】韓国で強まる、日本の放射能汚染への懸念

──韓国国内産食品の検査はほとんど行われていないが......
韓国オリンピック委員会は東京五輪に参加する選手団に食事を提供する支援センターとの契約を完了した。
選手団の滞在先として選手村から約15分離れたホテルを借り、国家代表選手村から調理師を派遣して、韓国から空輸する食材で参加選手の食事をサポートする計画だ。
これは日本産食材放射能汚染を懸念してのものだ。こうした過剰ともいえる対応は、昨年7月に日本政府が韓国向け輸出管理を強化して以降、強まっている。

日本産食材への規制は強まった

福島第一原子力発電所の事故を受け、韓国は日本産食材の輸入を規制し、日本政府機関が発行する証明書の添付を義務付け、全品検査を開始している。輸入規制を設けた54カ国のうち、2020年1月までに34カ国が規制を撤廃したり緩和する国が増えるなか、韓国は日本政府が韓国向け輸出管理を強化した昨年7月以降、規制を強めている。過去に放射能が微量検出された品目の検査を2倍に増やすなど、検査対象を拡大した。

ソウル市は19年8月から1ヶ月、市場やスーパーで売られている日本産農水産物や日本産原料が含まれる加工食品を検査して結果を公開すると発表した。期間中、セシウムヨウ素は検出されていない。日本の食品は出荷時に検査を行い、輸入時には韓国政府も検査する。検出される可能性はほとんどない。

さらに韓国食品医薬品安全処は、2020年1月7月、日本製化粧品のマスカラやアイライナーから放射性物質が検出されたとして、当該製品の販売中止と回収措置を行った。安全基準値より低いが、化粧品に使用できない原料が検出されたとして同製品を購入した消費者に返品を呼びかけた。同製品を製造したメーカーは、原料調達や製造過程、また出荷前にも検査を実施し、問題ないと判断した上で販売しているとして代理店を通じて異議の申し立てと情報開示を求めている。

■ 韓国与党も根拠が不明な日本の放射能汚染図を公開

19年9月に韓国与党「共に民主党」が、根拠が不明な日本の放射能汚染図を公開すると、外務省は在韓日本大使館のホームページを通じて、福島市いわき市、東京、ソウルの放射線量を公開した。日本国内は各自治体、ソウルは韓国原子力安全技術院の測定値を、休館日を除く毎日更新している。

また、「共に民主党」が公開した地図には東京五輪の主要競技場の土壌に含まれるとされる放射性質量が記載されており、福島あづま球場は1平方メートルあたり205万7800ベクレル、宮城スタジアムは同4万8000ベクレル、埼玉スタジアム同20万3800ベクレル、国立競技場21万9480ベクレルなどの数値が並んでいた。

同党は出典を「みんなのデータサイト」としているが、同サイトの福島あづま球場に近い測定ポイントは14万5200ベクレルで14倍の開きがあり、国立競技場も一番近い新宿区片町が1万9100ベクレルで同じく11倍以上、埼玉スタジアムに最も近いポイントは200ベクレルで、共に民主党の地図とは3桁も異なっている。

■ 韓国国内産食品の検査はほとんど行われていない

日本産食品等の放射能検査を実施する一方、韓国産の食品や日本以外の国から輸入した食品の検査はほとんど行われていない。

2014年1月、ソウルでスイーツの国際イベントが行われ、主催者は欧州などから原材料を輸入した。輸送の際に日本の港を経由した原材料が検査対象となり、一部から基準を超える放射性物質が検出されて輸入が拒絶されたが、欧州から直送した原材料の検査が行われることはなく、イベントで使用されている。

スイーツ材料に含まれる放射性物質の基準は、日本と韓国は1キログラムあたり100ベクレルで、EUは1250ベクレルである。韓国の基準は370ベクレルだったが、福島原発の事故の後、日本に追随して引き下げた。

また、19年10月、韓国内で飲料用の地下水76カ所から基準値の最大157倍のウランが検出されている。2007年にも環境部が世界保健機構(WHO)勧告値の109倍のウランが検出された地域に地下水の飲料を禁止する通告を出したが、汚染の可能性が浮上したのは2003年で、4年間放置されていた。

韓国政府とともに日本の放射能汚染を批判する環境保護団体グリーンピースだが、2016年、韓国の原発に警鐘を鳴らしている。国土面積当たりの設備容量や原発密集度が世界で最も高く、同団体は半径30キロメートル以内に380万人が居住する古里(コリ)原発を「原発が6基以上集まっている世界の原発団地で、最も居住者が多い」と懸念を述べている。

日本の厚生労働省は、福島原発の事故以降、食品中の放射性物質の基準を引き下げた。生産者は出荷時に検査を行い、また測定限界以下など国より厳しい基準を設ける小売店もある。少なくとも日本の正規ルートで基準を超える食品が消費者に届くことはないはずだ。韓国に輸出される食品も同様だが、日本産食品には、過剰とも言える規制が実施され、韓国の国内産食品には、安全が確認されていない“安全神話“とも言える多くの食品が食卓に並べられているのが実情だ。

佐々木和義