【#日経ビジネス】新型コロナで致死率9.3%のイタリア、オーバーシュートの脅威

 イタリアの新型コロナウイルスの感染者と死者が増え続けている。3月22日夜時点で、感染者は前日から5560人増の5万9138人、死者は651人増の5476人になった。感染者数は中国に次いでいるが、死者数は世界最多で致死率は9.3%まで上昇している。

 3月12日に掲載した「新型コロナのパンデミックで避けたい未来、医療崩壊のイタリア」(関連記事参照)の後も状況は悪化し、様々なメディアがイタリアの惨状を報じている。一部の地域では新型コロナに感染した重症患者が急増し、医療態勢が追いつかない医療崩壊が起きてしまっている。米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は19日、北部のロンバルディア州ベルガモ医療崩壊の実態を伝えている。

 記事によると、ベルガモにある大規模な病院では、新型コロナの重症者が急増し、患者全員に挿管できるだけの人工呼吸器が備わっていないという。集中治療室(ICU)の受け入れ能力も限界を超えており、治療する患者を選ばざるを得ない。地元の医師は、ベルガモの人口の過半が新型コロナに感染しているとみる。

 イタリアが苦境に追い込まれていることは、各種データからも読み取れる。感染者数は増え続けている。22日は前日に比べ感染者と死者の増加数は下がったが、依然としていずれも高水準にある。

 検査体制の問題が指摘されるが、データからは検査自体の問題点は読み取れない。3月以降は9日を除き、検査数に対する陽性数の比率は14~33%の間に入っている。検査数と陽性数に大きな異常は認めづらく、このペースだとしばらくは感染者が増え続けてしまいそうだ。

 また、高齢者の致死率が高いのは明らかだ。30歳以下の致死率はゼロだが60~69歳では4.4%、70~79歳は13.5%、80~89歳は20.9%、90歳以上は22.5%になっている。ちなみにこのデータは20日時点のもので、この時点でのイタリア全体の致死率は7.6%だったため、現時点ではこれらの数値はさらに上昇している公算が大きい。

 イタリアでは3月10日に原則的に外出禁止となり、人の交流や感染リスクはその前に比べて大幅に減ったはずだ。そろそろ感染者と死亡者の数にピークがきてもおかしくないが、いまだにピークを越えたとは言い難い。その理由は主に4つ考えられる。

感染から公表データ反映にタイムラグ
 1つ目は、外出制限の3月10日より前に感染が広がっており、データには遅れて反映されている可能性だ。新型コロナウイルスの潜伏期間は1~14日で、症状が現れる平均日数は5~6日といわれている。症状を自覚してから検査を受け、公表されるまでに一定の時間がかかるだろう。長いケースでは、感染から公表データに反映されるまで2~3週間かかる可能性があり、10日の外出制限より前に感染している人々の検査結果が、徐々に明らかになっているのかもしれない。

 2つ目は、外出禁止を守っていない人々がいて、その人たちが感染を拡大している可能性である。10日以降、経済都市であるミラノの中心地などでは人が明らかに減っているが、場所によっては人々が集まっているケースもあるという。地元メディアは、ミラノのおしゃれなエリアとして知られるナヴィリオ地区に人々が集う様子などを報じている。

 3つ目は、医師や看護師など医療従事者の感染だ。イタリアでは感染者のおよそ1割が医療従事者とのデータがある。ロンバルディア州では多くの医療従事者が感染してしまっているとの報告もある。先ほどのWSJの記事では、救命救急士が感染し、街中で感染を広げているという指摘があった。

 こうした状況の中で、医療崩壊が起きてしまっているのが4つ目の理由だ。現地の医療従事者から医療崩壊の実態が報告されているが、データで見ても、今後も厳しいことが分かる。22日時点で新型コロナに感染し、ICUで治療を受けている患者は約3000人、入院患者数は約2万人と右肩上がりに増えており、逼迫している医療態勢を改善するのは容易ではない。

 イタリアのコンテ首相は21日、「戦後、最も困難な危機だ」とビデオメッセージで訴え、一段の対策強化を打ち出した。経済活動への配慮のため、オフィスや工場の稼働を許容してきたが、暮らしに関わる食品や薬品の工場を除き、これらの稼働も停止させた。

 ジョギングなど屋外運動を禁止するほか、すべての公園を閉鎖した。ミラノに暮らす日本人は、「外出していないので感染リスクは少ないと思うが、万が一体調を崩した場合に治療を受けられない可能性があるので、緊張しながら暮らしている」と話す。

日本でも起こり得る爆発的な患者の急増
 

 強硬措置の背景にあるのは、北部イタリアはもちろんだが、北部より経済的に豊かではなく、医療体制も整っていない中南部での感染拡大を防ぐためだ。イタリア全体で捉えられることが多いが、実態は北部のロンバルディア州が突出して深刻な状況にある。ロンバルディア州だけ感染者が急増しており、他の地域と明らかな差がある。

 新型コロナ対策で恐ろしいのは、局地的に爆発的な感染拡大(オーバーシュート)が起きることだ。患者を遠方に搬送することはできず、医療機関の受け入れ能力にも限界があるため、オーバーシュートが起こると医療崩壊が起き、簡単には改善できない。

 日本でもオーバーシュートが起きるリスクある。安倍晋三首相は20日、「爆発的な感染拡大には進んでおらず、引き続き持ちこたえているものの、都市部を中心に感染者が少しずつ増えている」との認識を示した。

 政府の専門家会議は19日、「感染源が分からない感染者が増加していくと、いつか、どこかで爆発的な感染拡大(オーバーシュート)が生じ、ひいては重症者の増加を起こしかねません」と指摘している。国単位での情報発信も必要だが、今後はオーバーシュートに備え、地域ごとの小まめな情報発信や注意がより重要になってくる。

大西 孝弘