【#現代ビジネス】韓国からの「訪日客激減」は、日本経済にどれだけ影響を与えたか…?

観光客はたしかに減ったけど…
 失効する可能性がきわめて高いと考えられていた、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)は、11月22日の夕刻、ぎりぎりで失効が回避された。安全保障にかかる連携は維持されたが、これで日韓関係が改善したとはいえず、依然として関係は悪化したままである。

 GSOMIAの失効回避が表明される1週間ほど前、日本では2019年7~9月期の国内総生産(GDP)成長率が公表された。前期比(実質、季節調整済)は0.1%増、年率に換算すると0.2%増であった。

 一応、成長率はプラスで踏みとどまったが、過去の3四半期の成長率が0.4~0.5%であったこと、消費税増税前の駆け込み需要があったと予想されることを考えると、決して良い数字とは言えず、むしろ低調であったとも考えられる。

 なぜここで日本のGDPの話を出したかというと、日韓関係の悪化が7~9月期のGDPを押し下げた可能性を示唆する報道がなされているからである。7月初めに日本政府が輸出管理適正化措置――フッ化水素など3品目を個別輸出に切り替えることと、いわゆる「ホワイト国」からの除外――を講じてから、韓国からの訪日客数が激減している。

 具体的には、7月は前年同月比で7.6%減、8月は48.0%減、9月は58.1%減である。これは言うまでもなく、日韓関係が悪化したことにより、日本への旅行を取りやめる韓国人が多くなったからである。

 一般的に訪日客は、日本で宿泊、飲食、買い物などを行うが、これらはGDP統計上、「財貨・サービス輸出」の中の「サービスの輸出」となる。ちなみに買い物は財貨の輸出に入りそうであるが、GDP統計では外国人による日本での直接購入はサービスの輸出に含まれる。

 2019年7~9月期のサービスの輸出は前期比で4.4%減少しており、GDP成長率に対する寄与度(GDPの増減のうちサービスの輸出が与えた影響)は-0.2%であった。そして、複数の報道では、サービス輸出の減少要因として、韓国からの訪日客の国内消費が日韓関係の悪化などで減少したことが挙げられている。

 そうであれば日韓関係の悪化は日本のマクロ経済にも影響を与えており、ただでさえ米中貿易摩擦により旗色の悪い日本の景気にとって、さらなる悪条件が重なったともとれる。

 しかし結論を先に示せば、「韓国からの訪日客の減少は2019年7~9月期のGDP成長率に与えた影響は小さい」、「韓国からの訪日客の減少が7~9月期のGDP成長率に与えた影響は10~12月期以降には継続しない」と言え、韓国からの訪日客の減少が日本のマクロ経済に与える影響は限定的である。

寄与度は0.1%を大きく下回る
 第一に韓国からの訪日客の減少は2019年7~9月期のGDP成長率に与えた影響は小さい点についてである。財貨・サービス輸出のうちサービス輸出は2018年の名目値で20.0兆円であり、財貨・サービス輸出の19.8%、GDP全体の3.7%を占めている。季節性があるものの四半期でのサービス輸出は平均すれば5兆円程度であろう。

 また観光庁によれば、2018年に韓国からの訪日客が日本で消費した金額は5881億円であり、宿泊費として1880億円、買物代として1626億円、飲食費として1502億円を費やしている。これも季節性はあろうが、四半期での消費金額は平均で1500億円程度であろう。

 7~9月については平均して4割程度の訪日客が減少しているが、少し多めに5割減と考えると、750億円ほどの日本での消費が減ったことになる。これは四半期のサービス輸出の1.5%であり、ざっくり見れば、7~9月のサービス収支の減少率である4.4%の3分の1程度を占める。

 つまり幅を持ってみる必要はあるが、韓国からの訪日客の減少による影響は、サービス収支の減少の3分の1程度を説明する程度であり、GDPを引き下げる効果は0.1%を大きく下回り、影響は小さいと考えることが妥当であろう。

 サービスの輸出の内訳は、訪日客の宿泊費や飲食費などの受け取りのみならず、国際貨物・旅客運賃の受け取り、特許権著作権の使用料の受け取りなどがあるが、内訳については公表されておらず、何が原因で今回、サービス輸出が減少したかは確認できない。しかし常識的に考えれば、7~9月期のサービス輸出の減少は韓国からの訪日客の減少のみならず、その他の影響も大きかったと見るべきであろう。

影響は長続きしない
 第二に韓国からの訪日客の減少が7~9月期のGDP成長率(前期比)に与えた影響は10~12月期以降には継続しない点についてである。7~9月期に韓国からの訪日客の激減が始まった。これはGDP成長率を引き下げる効果としては0.1%を大きく下回ると推定され、影響は小さいと考えられるが、これが継続すればそれなりの影響になるのではないかという考えもあろう。

 しかし、7~9月期に4割程度の訪日客が減少したわけであるので、10~12月に季節調整済前期比ベースでさらに継続して同様の影響を日本経済に与えるためには、同程度の訪日客が減らなければならない。

 具体的には10~12月期の韓国からの訪日客が、前年同期比で見て、4割+4割で8割減になる必要がある。理論的には存在する数値であるが、現実的に考えれば、ここまで減少する可能性はほとんどないであろう。よって韓国からの訪日客減少の影響は10~12月期に前期比ベースではほぼなくなると考えることが妥当である。

 もちろんマクロでの影響は限定的であるが、ミクロの影響はある。韓国からの訪日客が比較的多く来ていた九州を中心とした観光地の、宿泊業、飲食業、小売業、観光業などの影響は大きいと考えられる。

 しかしマクロで見る限り、GDP成長率が伸び悩んだ理由のひとつに上げられるほど、日韓関係の悪化による韓国からの訪日客の減少は日本経済に影響を与えてはいないとともに、わずかな影響も10~12月にはほぼ消える。

 GSOMIAの失効は回避されたが韓国からの訪日客が減少した状況が回復することは、しばらくなさそうである。これは日韓関係にとって残念なことではあるが、日本経済への影響については過大評価する必要はなさそうである。

高安 雄一